第81回 一水会展
2019年9月19日から10月5日まで
東京都美術館
普段街を歩いていてこういう光景があっても恐らくそのまま通り過ぎると思うのです。それが額縁の中に入ると、何故これほどまでに魅力が出てくるのか。錆び付いたドラム缶、灰まみれの燃えかす、ひび割れたコンクリートの壁、壊れたブイ。これをじっとながめる鑑賞者の心中に去来するものは何でしょうか。
灰色の空、濡れて光った路面、傘や地面に落ちる雨の音。急いでいるときや洗濯をしたいときにはひたすら鬱陶しい雨ですが、こうして絵にすると心地のよい趣がたっぷりです。
この画面の何に目を奪われるのかというと当然のことながら大きな影なのですが、この大きな影を浮き立たせているのは周囲のまぶしい光であり、その光の源はこれも当然のことながら偉大な太陽です。そして、その偉大な太陽の光をこれだけ大きくさえぎってしまう市庁舎もまた、街の人々にとって愛すべき重要な存在と言えるでしょう。これはやはり市庁舎のロビー階にでーんと飾るべき作品ではないでしょうか。
路地裏の美学ですね。これも普段は気にもとめずに通り過ぎてしまう、どこにでもある光景です。そのどこにでもある光景に誰かが光を当てる。その存在を美しいと感じ、喜び、自分でもそれを表現したいと熱望する。その表現されたものを見た人間も、それを見て美しいと感じ、喜ぶ。芸術とはすなわち、この世を賛美することだったんですね。
身の回りにある構造物で一番感嘆するもの。それは高架橋です。この上を重たい車や電車が走るんですよ。それも何十キロ、何百キロと。車や電車で走る分にはあっという間かも知れませんが、造るのは気の遠くなるほど長い年月です。まあよくぞこんなでかいものを造ったなと、目にするたびに感動しています。画面奥のほうでゆるやかにカーブしている高架橋。この曲がり具合が絶妙です。
上部に照明が映り込んでしまったのが残念。
雨で濡れたアスファルトに反射する車のヘッドライトやネオンの美しさ。これは街中でしか見ることの出来ない情景です。なるほど大自然は美しいのですが、自然と人工物が入り混じった美しさもまた格別です。